透析センター
はじめて透析治療をご利用される方への基礎知識
1.透析とは
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_01.png)
腎機能低下を認める患者様に対して、腎不全の進行抑制と合併症予防を主とした治療を行うものです。治療の種類には、血液透析、腹膜透析、生体腎移植、献腎移植の4つの方法があります。患者さまの大部分を血液透析が占めています。
当院では入院患者様、外来通院患者様約100名の血液透析を行っています。
血液透析とは
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_02.png)
引用:一般社団法人 全国腎臓病協議会
https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/cure/hemodialysis/dialysis-method/
血液透析はダイアライザーという人工腎臓を使い、体内に溜まった不要な老廃物と余分な水分を除去する治療です。バスキュラーアクセスの手術を必要とし、1回に3-4時間、週3回の治療が必要になります。腎臓は24時間働いていますが、人工腎臓は1週間で12時間しか働くことができないので、本物の腎臓の全てを担うことはできません。食事や薬物管理などの生活での注意も必要となってきます。
〇不要な老廃物
尿素窒素、クレアチニン、過剰な水分など
〇調整するもの
電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなど)
2.バスキュラーアクセスとは
透析をはじめるにあたり、バスキュラーアクセスというものを作成します。血管が太く血流量の多い動脈を利用し、たくさんの血液を人工腎臓に運ぶ必要があるためです。
主なバスキュラーアクセスは、4種類です。
(1)自己血管内シャント
![自己血管内シャント[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_03.png)
引用:~笑顔でいきいき~透析新ライフ
https://www.kissei.co.jp/dialysis/faq/02.html
基本は利き手ではない腕の手首付近作成に自分の静脈と動脈をつなぎ作成します。静脈が細く作成が困難な場合は利き手や肘のあたりで作成することもあります。自己血管内シャントは長期開存や感染に強いなどの長所から透析導入するにあたり第一選択となります。
(2)人工血管内シャント(グラフト)
![人工血管内シャント(グラフト)[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_05.png)
静脈が細いなど何らかの理由で自己血管内シャントを作成できない場合の第2選択となります。太いゴム製の人工血管を入れ、それに針を刺していきます。人工物のため、感染も起こしやすいです。
(3)動脈表在化
![動脈表在化[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_04.png)
皮膚から深い位置にある動脈を外科手術で持ち上げ、直接動脈に針を穿刺する方法です。
シャント作成困難な方や心不全で一部の動脈が心臓に戻るような負荷をかけられない方に行います。
(4)カテーテル
![透析用カテーテル[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_06.png)
引用:コヴィディエンジャパン株式会社
https://asiapac.medtronic.com/content/dam/covidien/library/jp/ja/product/
dialysis-vascular-access/palindrome-precision-patient-resource.pdf
シャント作成が困難な患者、小児患者、緊急で透析を行うシャントのない患者、重度心不全患者の方などで使用されます。
主に身体の鎖骨下や鼠径部にカテーテルの管を入れるので、穿刺はありません。
1.長期留置カテーテル
シャント作製困難な患者様に対して、長期留置カテーテルが使用されます。
長期使用できるよう皮下トンネルを作成し留置します。
2.緊急時ブラッドアクセス留置用カテーテル
シャント作製困難な患者様に対して、長期留置カテーテルが使用されます。
緊急透析導入時や内シャント閉塞などアクセス不全時に一時的アクセスとして使用されます。
3.腎機能が低下してきたときの身体の変化
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_07.png)
尿量低下
通常は1日1000-2000mlですが、腎機能が低下し末期になると1日の尿量は減っていきます。
老廃物の蓄積
腎臓は血液を濾過して老廃物を排泄しますが、腎機能が低下し、ろ過機能が悪くなるので、それらが体内に溜まると以下のような尿毒症症状が現れます。食欲が低下する、吐き気がする、眠れないなどの症状があります。
浮腫(むくみ)
尿が出なくなると、体の中に水分や塩分が溜まり、足、まぶた、顔などあらゆるところが浮腫んできます。肺胞に水分が溜まってしまうと息苦しさが現れることもあります。
高血圧
高血圧の主な原因は、水分や塩分の摂りすぎにより、それらが十分に排泄されず体液量が増加することで起こります。また、高血圧は動脈硬化、心臓病、脳卒中、視力障害(眼底出血)などの原因にもなります。
貧血
腎臓の機能が低下すると、造血ホルモン(エリスロポエチン)が分泌されにくくなり血液(赤血球)が作れず貧血になります。
電解質異常(カリウム)
本来カリウムは尿に排泄されます。カリウムが溜まってしまうと手指の痺れやだるさ、胸の苦しさ、不整脈が出て心臓が止まってしまうこともあります。
骨粗鬆症
腎臓の機能が低下することで、骨がもろくなり、骨粗鬆症や骨折が増えます。
4.透析治療を始めてからの変化(合併症)
不均衡症候群
体に毒素がたまっている、透析導入期によくみられます。
症状は、透析中から透析終了後12時間以内に起こる頭痛・吐き気・嘔吐・腹痛などです。
脳の中の老廃物は除去されにくく、体と脳との間に濃度差が生じます。脳がむくみ、脳の内圧が高くなることで引き起こされる症状です。体が透析に慣れていけば徐々に起こりにくくなります。予防には、水分や塩分、タンパク質の制限を守ることで緩やかな透析を行う、透析時間を延長するなどです。
不整脈
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_08.png)
透析による除水や急激な電解質の変動により不整脈が起こりやすくなります。 動悸や胸痛、脈が抜けるなどの症状が現れます。
また、高血圧や糖尿病などを合わせて持っている方が多く、心臓の壁が厚くなったり、心臓の動く力が弱くなったりします。そのため、血液を体中にうまく運ぶことができなくなり、心房細動という不整脈が起こりやすくなるため、脳梗塞につながる恐れがあります。
不整脈の予防・治療は、個人の食事管理・薬物治療はもちろん、当院ではカテーテルアブレーション、ペースメーカー治療などにフォローできるよう循環器など他診療科との連携をしております。心臓の機能を確認できる心エコーという検査もバースデー検査で1年に1回推奨しています。
身体のかゆみ
透析による除水や水分制限、透析不足、リンの値が高いことなどが原因でかゆみや皮膚の乾燥が起こります。また、免疫機能が低下し、感染症にかかりやすいため、皮膚をかきむしってしまうと傷が治りにくかったり、体の中に菌が入り込む恐れがあります。保湿剤やクリームを使用するなどスキンケアも行っていきましょう。
かゆみ改善のため、透析の方法や投与薬剤、検査データを検討することもあります。
浮腫
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_09.png)
むくみは要因の1つとして飲食による体重増加があります。透析を始めるときの原疾患により、尿量や腎臓の残存機能はそれぞれ異なります。そのため尿の量に差があり、飲食したものが「体重増加=むくみ」となる傾向にあります。
むくみを改善するには、まずは飲食・体重管理です。透析室ではドライウェイトを調整したり、除水をしたりします。その他要因として心機能の低下、低栄養などがあります。
※ドライウェイトとは・・・透析による目標除水量を決める際に基準となる体重のことです。日本透析医学会では「体液量が適正で、透析中に過度の血圧低下を生ずることなく、かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」と定義されています。
血管の石灰化
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_10.png)
体内のリンとカルシウムのバランスが崩れると、「高リン血症」と「低カルシウム血症」、そしてPTHが過剰に分泌される「二次性副甲状腺機能亢進症」になります。
骨が破壊され脆くなり、骨以外にカルシウムが沈着する「異所性石灰化)」というものを引き起こします。
石灰化は血管、シャント血管、関節、特に動脈に生じます。心臓の冠動脈にも石灰化が起こることがあり、心臓の動きが悪くなり、狭心症や心筋梗塞などの要因となります。石灰化した血管の硬化部を取り除くことはできず、二次性副甲状腺機能亢進症を予防することが大切です。その主な原因となる高リン血症の予防・治療は、「食事療法」、「透析」、「薬物療法」の3つを組み合わせて行います。
また、当院では心臓の血管の状態や心機能を見るために「心エコー」、骨の状態をみるために「骨密度」の検査を行います。
消化管合併症
水分制限により、胃に食べ物が残りやすく胃液の逆流が生じやすくなります。体内の水分量の変化により、胃粘膜の潰瘍や出血も起こしやすいです。また慢性便秘により憩室(腸にできるポケットのようなもの)なども生じやすいです。定期的に胃カメラや大腸検査など行うことをお勧めしています。当院バースデー検査においても「内視鏡検査(胃カメラ)」をお勧めしています。
足の病気
![[図]](/images/department/dialysis/knowledge/fig_11.png)
透析患者様では、足の病気になることもあります。下肢末梢動脈疾患(PAD)というもので足の動脈が詰まることで足先の血流が保てなくなる病気です。患者様の中には糖尿病を持っている方も多くいるため、皮膚の潰瘍・壊疽へと進み、最終的に切断するケースも少なくありません。足の痛みの有無、皮膚温度、皮膚の色の変化など足先を観察し、予防・早期発見していくことが大切です。透析室では必要時看護師がフットチェック・ケアなど行っています。
当院では血管の狭窄・閉塞が生じた場合、循環器科にて下肢PTAという足の血管を広げる手術を行っています。また、血管の詰まり具合をみる「ABI」という検査も行っています。
下肢つり
透析中や透析後に足がつるという患者様がいらっしゃいます。足がつる要因は、透析での除水量が多すぎたり、DWがきつい設定になってしまっていたりということも考えられます。透析中であれば、補液、除水量の調整、漢方薬服用、マッサージなどを行うことができます。足のつりは痛みだけでなく、疲労感や不眠、透析治療の中断につながることもあるため、我慢せずにスタッフへお伝えください。
5.合併症を予防するために
- 体重の増加を抑えましょう。(ドライウェイトの3~5%以内)
- 無理なく透析を行いましょう。 (1時間当たりの除水量を少なくする)
- 効率の良い透析を行いましょう。
- 栄養バランスを整えましょう。
- 感染症を予防しましょう。(栄養をしっかり取る、清潔にする)
- 自分の血圧や検査データをよく理解し、把握しましょう。
- 定期的に検査を受けましょう。
- 気になることがあれば透析センターのスタッフに相談しましょう。